光の森の満開の下
ブライアン

そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日ごろのような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷たい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は初めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのです。

「桜の森の満開の下」    坂口安吾



新幹線から降りた景色は、ぼやけた熱気に包まれていた。
ミニスカート穿いて、サングラスをかけた女性が、
エスカレーターから降りてくる。

きれいな細い足を交互に前へ出し、
ファーストフードの店の前に立つ。
待合室にあった大型のテレビ画面は、高校野球を映している。

リュックを背負った10歳くらいの男の子が
オリンピックは、と親に尋ねていた。
携帯電話の液晶には、その結果が流れている。

風の吹かない待合室で、
ミニスカートをはいた女性は、足を組んで坐っていた。
光が煌々と照らされた、午後2時だった。

震えた背筋が、
午前の山の上に雲を張った。
高校野球を過ぎて、また一日が戻ってくるのだ。



自由詩 光の森の満開の下 Copyright ブライアン 2008-08-15 23:26:56
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