忘れないで
蜜柑
お盆休みが来ると
街は色を変えていく
都会から若者が消え、生まれ育った静かな町が
騒がしくなる
目も覚めやらぬ
太陽がまだ2度寝をしている頃
私は家を出た
日々の日常は忙しく過ぎさり
昨日話した相手の顔さえ忘れてしまう
きっとその忙しさに、甘えていたのだろう
忙しいから仕方がないと
私は今日
何年ぶりかに墓石の前に立つ事が出来た
何も言ってはくれないけれど
寂しい顔をして
"来てくれてありがとう"
と笑っている祖父の姿が見えた
あの頃と何も変わらない
曲がった背中と皺くちゃな笑顔
幼い頃、祖父の皺くちゃな手で頭を撫でられるのが
大好きだった
そんな大切な事を
忘れてしまっていた
私は、すまないと思いながら
綺麗に掃除をした
朝日が差してきた頃
私は太陽におはようと挨拶をかわし
日々の疲れを癒すような涼しい風と
鳴り止まない蝉の鳴き声は
命の尊さを教えてくれているようだった
来年も会いに来るよと
墓石に語り掛けると
返事はないけれど
風がやさしく
"待っているよ"
と告げていた
背を向けて帰る私に
いつまでも
いつまでも
あの頃と変わらぬ、背中を曲げた祖父が
寂しい顔をして、皺くちゃな手を振っていた
いつまでも
いつまでも