ピエタに寄り添う
セルフレーム


十字架の下で貴方に会ったとき、私、
言い忘れてた事があったわ―


ピエタに寄り添う


私の教会。

小さな村の、たった一つの教会。
大きな十字架の下に、
「ピエタ」がある―

「ピエタ」
十字架から降ろされたイエスを抱く、マリアの像や絵。

私の教会には、像があった。
もう随分古い、木製の像。

確かに汚かったけど、私は大好きだった。

ある冬の夜。
南からやってきた旅人が、教会に泊まらせてくれ、と、ドアを叩いた。

少し年老いたシスターがそれを許して、教団の裏の小部屋に泊まらせた。
ピエタはその夜も、静かに微笑んでいた。

夜中の2時頃、だったかしら・・・
旅人は、ゆっくりピエタに近付いて、裏を弄りはじめた。
ピエタの裏側に隠された、先代の神父のロザリオの在り処を知っていたらしかった。

ロザリオを盗った旅人は、振り向いてドアに向かっていく。

私、後ろから声をかけたの。

「それは大切なものよ」
「子の村の神父は優しかったけど、決して有名なんかじゃなかったわ。
そんな人のロザリオを盗んで、貴方に何の得があるの?」

旅人は静かにこう答えた。

「教会の・・・!
ロザリオは、私のものなんです」

「此処の先代の神父様は私の叔父です。
私、幼い頃に叔父からロザリオを貰いまして・・・
お礼に、私が作った木製のロザリオを叔父にあげたのです」

「叔父は死ぬ時、ロザリオの在り処を教えてくださいました。
いつでも好きなときに取りに行きなさいと・・・
それから、もう12年も経ってしまいました」

私は、何も言わなかった。
旅人は、ピエタの方に歩いてきた。
それから、こう言った。

「でもこのマリア様のお顔を見たら・・・
叔父のロザリオは此処に在ったほうがいいと思ったのです。
もう、いいのです。
私のロザリオも叔父のロザリオも、此処に置いて行きますね」

「十字架の精様、ありがとうございました」

気付いたかしら?
私は、この教会の十字架。

でも私の下で貴方に会ったとき、
言い忘れてた事があったわ。

私は、十字架の精じゃなくて、十字架にとりついたシスターよ。
初代の神父さまの傍に居たシスター。

もともと身体が弱くって、病気で死んだの。
ピエタに寄り添うようにして。

だから、今でも此処に居るわ。
この教会が好きなのよ。


ピエタに寄り添う




自由詩 ピエタに寄り添う Copyright セルフレーム 2008-08-13 18:58:09
notebook Home 戻る