1890円(税込)の文芸誌
キリギリ

齢73にしてライトノベルに手を出した筒井康隆の作品が
読めるのはファウストだけ。やる気と本の厚さは正比例すると
思い込んでいる編集長、大風呂敷はどんな不誠実さも丸め込むと
思い込んでいる編集長、による1200ページを越える文章群。
それがファウストである。小さくて、厚くて、持ちにくい。

前号より2年半の月日を隔て発売された「ファウスト vol.7」の
特集は筒井康隆ではない。残虐と日常を同じ広場に置き、作者と
登場人物を同じ広場に置き、ともかく何でもかんでも同じ広場に置き、
キチガイの解放治療よろしく眺め、突つき、手に負えない者は殺し、
生き残った者が回復する話を多く書く佐藤友哉(三島賞作家、既婚)
である。まず彼の短編が2本。どちらも人が死ぬ。そして彼と同世代の、
キャラ立て御用聞き作家、西尾維新との対談があり、馬の骨による
評論が続く。特集1終わり。

続く特集2は北京オリンピックに便乗した芥川賞便乗企画「中国の
イケメン作家を讃えよ」である。中国はスゴい。なにせ人が多い。
年収1000万を越える人間が1億人以上いるんだ。だからネットで
反中を訴えている諸君はみっともないね。敵わないね。そんな中国で
今、若者に大人気のイケメン作家による「無数の飢えた亡霊が、手を
伸ばして物乞いしているみたい」な小説があり、エネルギーに満ちた
中国の若者は、炭酸の抜けたダイエットコカコーラのような日本の
若者より勝ってる!期待される!今すぐ中国語、習わなきゃ!と言った
評論やら対談やらインタビューやらが場所を取っている。

そして負けてる日本人による小説が幾つか。無風。

ようやく御大の登場である。イラストは涼宮なにかでおなじみの嬢。
タイトルは「ビアンカ・オーバースタディ」。大人気ゲームソフト
「ドラゴンクエスト5」の最後でビアンカを娶った勇者が新妻を開発、
つまりビアンカに夜のお勉強をさせる小説である。オーバースタディである。
まだ純真で夜技など1つも知らず赤ちゃんはコモドドラゴンが口にくわえて
持ってくると信じているビアンカに生殖とはもっとドメスティックな、
汁っぽい駆け引きの果てにお前自身の腹に植え付ける行為であると教え、
また古今東西の性書に記された様々なヴァリエーションを試み、旦那を
悦ばせる為のテクニックを身に付け一人前の娼婦にさせるまでを描く
連載小説の1話から3話までが載っている。まだ序盤ということもあり
開発はブロウジョブつまり手を使った射精に留まっているが、3話の
終わりには獣姦を匂わす会話もあり、やや性急に過ぎる気もするが
今後が楽しみである。

そしてファウストは終わる。他にもあったかもしれないが
あの厚みでは紙束という認識を越えることは難しいのだ。何か
文字が書いてあったようにも思えるが何故か、誰の手によるものかは
一切分からない。ともかくファウストは終わった。おめでとう。
おつかれさま。まだ読んでいない人も、この文章をファウストの
代替とし、読了したと認識、放言してもらって構わない。これは
その為の文章なのだから。おめでとう。浮いた1800円は何に使う?


散文(批評随筆小説等) 1890円(税込)の文芸誌 Copyright キリギリ 2008-08-13 12:09:40
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