海のアルバム
佐野権太
国道を南下すると
海がひらける
それは
わかっているつもりだった
潮の香りがしている
目を細めて見つめている
+
波打ち際で
砂をかく
砂をかくと
掘り起こされてしまう
いくつもの栞
からめようとした指先を
さらってゆく、波
+
午前の海を背に抱いて
浮かんでいる
爽涼な空のキャンバスを
斜めに走る雲ひとすじ
銀に輝く小さな機影を
どこまでも追いかけている
+
色とりどりの
魚図鑑をひろげている
あれは
ハギのなかまであったか
ひらべったい体をくゆらせて
水色の光線をくぐって
+
君の絵日記は
レンズ越しみたいに
ときめいた部分だけが膨張している
きっとそれが
正しいかたちなのだ
+
海のアルバムをめくる
ときに闊達で
ときに照れている
やけに若い二人だ
瞬きの隙間を狙って
切り出された一枚、一枚
こんなふうに残すことは
いつか、しなくなった
フィルムに焼き付けた絵は
その場で確認することはできなかったが
写真屋で手渡される袋の厚みは
いつも尊い喜びにあふれていた
立ち止まって、仰ぐ
絶え間なく回転する
金属盤のような蝉の鳴声
この夏、残したものは