海のアルバム
佐野権太

国道を南下すると
海がひらける
それは
わかっているつもりだった
潮の香りがしている
目を細めて見つめている

+

波打ち際で
砂をかく
砂をかくと
掘り起こされてしまう
いくつもの栞
からめようとした指先を
さらってゆく、波

+

午前の海を背に抱いて
浮かんでいる
爽涼な空のキャンバスを
斜めに走る雲ひとすじ
銀に輝く小さな機影を
どこまでも追いかけている

+

色とりどりの
魚図鑑をひろげている
あれは
ハギのなかまであったか
ひらべったい体をくゆらせて
水色の光線をくぐって

+

君の絵日記は
レンズ越しみたいに
ときめいた部分だけが膨張している
きっとそれが
正しいかたちなのだ

+

海のアルバムをめくる
ときに闊達で
ときに照れている
やけに若い二人だ
瞬きの隙間を狙って
切り出された一枚、一枚
こんなふうに残すことは
いつか、しなくなった

フィルムに焼き付けた絵は
その場で確認することはできなかったが
写真屋で手渡される袋の厚みは
いつも尊い喜びにあふれていた

立ち止まって、仰ぐ
絶え間なく回転する
金属盤のような蝉の鳴声

この夏、残したものは







自由詩 海のアルバム Copyright 佐野権太 2008-08-13 10:30:57
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