玉川のほとりで
パラソル

玉川のほとりで
豪華客船が座礁し、
1組のカップルが愛をささやきながら、
女のほうは沈んでいった。
深さ50センチの川で なぜ


長らく疑問だったが、
僕は今日職安にいった。
ドラキュラのような職員が、僕を見るなりこう答えた。
「君、そりゃあ、ダメだよ」

つまり、頭部の無い人は再就職の可能性が無いらしい。
思考ができない事が第一として挙げられる。

僕は、ねじ工場で失った頭の輪郭を思い出そうとしていた。
そんなバカな。
こいつは何を言ってるんだ。僕は、今日、
どこに来たんだ。職安だ。
なぜ来たんだ。働くためにだ。生きるためにだ。
僕は、あきらかに思考している。無い頭を思い出しながら、
こいつは、僕が職安に来た事実を知りながら、
なぜそれが分からないのだ。 ぼくは、こいつは、
こいつこそ思考してないじゃないか!

ふいに、横にある金魚鉢を、ひったくった。
そしてそれをひっくり返して、先に何もない首の上にのせた。
ぼくは、金魚鉢をのせながら、首からありあまった思念が
あふれ出て、金魚鉢の中に充満していくのを意識した。

「ぼくは、、、ぼくは、、、これで、、、頭ができたじゃないか!
 これで、考えられるじゃないか!
 ぼくは、頭がなくたって、考えられるじゃないか!
 なぜ僕は職安にきたんだ!?」

その時、ザバーと、かかった水が
とてもここちよかった。

思念と金魚が、僕の頭の中でピチャピチャとはねている。


帰りに、さっそく金魚鉢を購入した。
そしてそれを頭にのせて帰った。
そうか、あの職員は、そうか、そう言う事か。
思考をつなぎとめておく、入れ物が、必要だったのか。

ふと何かを思い出した。
僕は玉川に寄り道した。
川に入ってみた。
すずしい。水が流れている。
ちょっと横になってみようか。
僕は、首までつかった。

まわりは、ほんとうに流れている。
いろいろな流れが、僕の新しい頭をゆらしている。
さっきまでつなぎとめていたものが、金魚鉢から簡単に流れていき、
それがちっとも惜しくない。

玉川で沈んだ女も、ここから戻れなくなったのだろうか。


自由詩 玉川のほとりで Copyright パラソル 2008-08-10 15:33:30
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