7㌢のガラスの靴
蜜柑
まるで遠い昔に母が読み聞かせてくれた
おとぎ話の世界の様に
時間の流れがひどくゆっくりと流れる中で
私はシンデレラの様になれると思っていた
私は今、顔を上げて熱いシャワーを浴びている
私はシンデレラにはなれなかった
可哀想な私が・・・ここにいる
何百、何千、何万の滴達がシャワーから落ちてくる
一粒一粒の滴の中に私を映し込みながら
静かに私を打ち続けている
私の思いを乗せて全て洗い流して行く様に
踵が痛い
よくよく見てみれば赤く腫上がった踵は
酷い靴擦れをおこしていた
君に少しでも近づきたくて
君に少しでも可愛いと思われたくて
無理して履いた7?のガラスの靴
君と一緒なら痛みなんて感じないのに
今はこんなにも痛い
私、無理してたんだ
私にはまだあの7?のガラスの靴は履けないんだ
君は私がどんなに手を伸ばしても届く事のない
高嶺の花なんだ
私はシンデレラの様にガラスの靴を履いて
素敵に踊る事が出来なかった
私の体を伝う滴達が言っている
君はまだ7?のガラスの靴を履けるほど
大人じゃないんだよ
ヅキヅキ痛むのは踵だけじゃなく心もじゃないのか?
流れて行くのは踵から流れ出る血だけじゃなくて
頬を伝う熱い熱い涙もじゃないのか?
きっと僕達と頬を伝う涙が何もかも洗い流してあげるよ
だから明日からはガラスの靴を脱いで
4?のハイヒールを履いたらいいよ
今の君にはちょうどいいはずだから
彼との距離は後3?
いつか7?のガラスの靴が似合うようになるまで
君にはもう少し時間がかかるだろう
辛い時はまたおいで
僕達が君の悲しい心を洗い流してあげるから
気づいた時には滴達はもう私を映してなどいなかった
彼との距離は後3?
7?のガラスの靴が履ける大人の女性になるまで後少し
シャワーから降り注がれた最後の一滴が
始まりの合図の様にタイルに落ちて弾けた