残り香
蜜柑

私と君との間には
何が残っているのだろう

別れようと言ったのは
君なのに

何故そんな顔をするのか
私には解らない

ヘビースモーカーの君はいつも
煙草と香水が混ざった
君の匂いがした

どこに居ても間違えることなどない

君の匂い

最近、私の髪や体、服に染み付いていた
君の匂いが消えてしまった

あんなに洗い流しても、洗濯しても
消えることなどなかったのに

時と共に自然と風化して消えてしまった

今は私の匂いがする

久々に会った君は
やっぱり君の匂いがした

君と別れてから、私の生活は
少しずつ
少しずつ、しかし確実に音を立てて

壊れ始めていた


最初は涙が止まらなくなった

心に溜めていた一生分の涙を
何日、何ヶ月かけて流し終えた
すると心はカラカラに乾いて
感情を表すことがひどく難しくなった
笑うことすらままならないので
今では仕方がないので、仮面を被ることにしている

次に食べ物が喉を通らなくなった

ついには何も食べれなくなったので
私は空気を食べる事にした
空気はお日様や草や風の味がした

たまに空気に混じって、色んな人が吐き出した
裏切りや、怒りや、悲しみが紛れ込むので
喉を通らず、しばしば水で流し込むこともあった
そんな日は決まって胸がキリキリと締め付けられた

最後には眠れなくなった

瞳を閉じると瞼の裏に住んでいる
君の面影が優しく話しかけてくるのが
いつしか怖くなった

何を映すでもない虚ろな瞳は
いつも困っているようで宙をさ迷っていた

いっそ誰かにあげてしまおうか


そんな時、君から連絡が来た

変わり果てた私を見て君は
『ご飯は食べているのか?睡眠は取っているのか?
君が倒れてしまったら、もう僕と連絡が取れなくなるんだよ?
それでもいいの?・・・僕は嫌だよ・・・』
と言った

私と君の間には何が残っているのだろう

君が捨てたのは、消したのは、私なのに
私の匂いなのに

何故そんなにも悲しい顔をするの?

カラカラに乾いた心がカランと音を立てて静かに泣いた


家に帰ると、煙草と香水が混ざった
君の匂いがした
私の髪や体、服に染み付いたようだ

君との間に何かが出来た気がした

今日は君の匂いに優しく包まれて、ゆっくりと
眠る事が出来るのかもしれない












自由詩 残り香 Copyright 蜜柑 2008-08-06 01:32:46
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