消音
かいぶつ

夜中にテレビを
消音にして見ていると
隣室から
パチッ。
という何かのスイッチの
音が聞こえた

5分後
バラエティ番組を映す
テレビ画面の上部に
速報がながれた

ひとり死んだ。
そんな報せだった

翌日、わたしは
昨夜と同じように
テレビを見ていた
するとまた
パチッ。
という音が
隣室から聞こえた

まさかとは思ったが
予想はあたってしまった
また、ひとり死んだと
速報がながれた

それは、ほぼ毎日つづいた
きまって平日の夜中だった

先週など仕事を休んで
日がな一日
聞き耳をたてていた
やはりスイッチは
午前0時
以降に押された

いつしかそれは
わたしの日課になった
密かな愉しみでもあった

この話を一度、
友人に話したことがある
彼はわたしに
快く精神科を勧めてくれた

わたしはひとり
友人を失った

今夜も
壁に身を寄せ
聞き耳をたてている

さて、
今日は何回?

テレビは
音楽番組を
放送している

パチッ。

パチッ。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・


パチッ。


アイドル歌手が
最新曲をうたい終え
拍手喝采を浴びている
大粒の涙をながしながら


緊急速報。


わたしは
テレビのスイッチを
切る。


パチッ。


あの夜、わたしが聞いたのは
盛大な拍手だったのか
それとも
スイッチの音だったのかは
知らない


自由詩 消音 Copyright かいぶつ 2008-08-05 03:54:07
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