「水のための夜」
ベンジャミン

「少しだけ泣いてもいいですか?」

あなたは細い声でささやく
そしてやっぱり止めようと
小さく肩をふるわせている

「きょうはずいぶんと湿った空です」

たしかに昼間吸い込んだ蒸気を
めいいっぱいにためこんだ空は
いつ落ちてきても不思議でない

「少しは落ち着くでしょうか?」

そうやって差し出したコップに
あなたが何を映しているのかも
僕にはとうていわかりませんが

「きょうはきっと泣くのに良い夜です」

もしかしたら僕は自分に言っている
そう錯覚してしまうくらいの夜です
だからってあなたの慰めにならない

「だからって泣けませんから」

まるで僕の心の内を見通したように
あなたが淋しそうに言うものだから
僕も半分やっきになっていたのです

「またたくことなくあなたを見つめます」

あなたはちょっと驚いたように
けれど何だか嬉しそうな感じで

あなたも僕を見つめようとする
僕はそれを手のひらでかくすと

「きょうはずいぶんと湿った空です」と

それは言うまでもなかったと
そう思いながら

僕もいつのまにか泣いていました


自由詩 「水のための夜」 Copyright ベンジャミン 2008-08-04 23:36:41
notebook Home