「水のための夜」
ベンジャミン
「少しだけ泣いてもいいですか?」
あなたは細い声でささやく
そしてやっぱり止めようと
小さく肩をふるわせている
「きょうはずいぶんと湿った空です」
たしかに昼間吸い込んだ蒸気を
めいいっぱいにためこんだ空は
いつ落ちてきても不思議でない
「少しは落ち着くでしょうか?」
そうやって差し出したコップに
あなたが何を映しているのかも
僕にはとうていわかりませんが
「きょうはきっと泣くのに良い夜です」
もしかしたら僕は自分に言っている
そう錯覚してしまうくらいの夜です
だからってあなたの慰めにならない
「だからって泣けませんから」
まるで僕の心の内を見通したように
あなたが淋しそうに言うものだから
僕も半分やっきになっていたのです
「またたくことなくあなたを見つめます」
あなたはちょっと驚いたように
けれど何だか嬉しそうな感じで
あなたも僕を見つめようとする
僕はそれを手のひらでかくすと
「きょうはずいぶんと湿った空です」と
それは言うまでもなかったと
そう思いながら
僕もいつのまにか泣いていました