「 ら ら ら の人々 」
服部 剛
ら ら ら という文字が
いつのまに薄れゆく
都会の空です
と ほ ほ という文字が
滲んだ墨汁の雨雲となり
黒いにわか雨の降りそそぐ
21世紀のTokyoです
黒い雨にずぶ濡れた人々は
電光掲示板の「36℃」に目をやらず
雨上がりの陽炎揺らめく路上を
途方に暮れた後ろ姿で歩いてゆきます
(心の奥の引き出しに、しまったナイフを忍ばせて)
街の外れの学校で
昔々金八先生が黒板に
白いチョークでくっきり書いた
「人」
という字も色褪せた
真昼の教室は今日も
透明人間が集います
都会の街の人々は
一つになれず弾き合う
「ひ」と「と」を
それぞれ胸に抱えたまま
個別の道をゆくのです
不思議と元気に見えるのは
仰いだ猛暑の空に浮く
あふれるような雲ばかり
(雲の間を、鉄腕あとむが飛んでゆく・・・)
「 」に括られた世界
の中心に置かれた赤い実に
むらがる蟻の群衆
21世紀のTokyoです