羊たちのまどろみの宴
りゅうのあくび

1.

まだ小さな姉妹たちが
夜明けの色をした色鉛筆で
たくさんの羊の絵を描きながら
うとうとしていたら
一匹目の雄羊が
夏の部屋の小さな黒い空を
食べ始めました
たいへんお腹が減っていてようだったので
壁に掛けてある時計と
身支度のための手鏡と
紺色の髪飾りの影も
次から次に食べて始めたところで
暗闇も影も全ては食べきれずに
すやすや眠ってしまい
夜が少し深くなりました

2.

まだ小さな姉妹たちは
寝床に就いてから少したったばかりで
夢の中へと二匹目の雌羊が現れていて
酒屋でケース売りの
缶ビールをたくさん家まで買って来ました
宴を開く運びとなっていて
ちょうど家では暗がりのところで
三匹目の雄羊が待っていて
宴会係の四匹目の雌羊と五匹目の雄羊を
呼ぶために糸電話で連絡を取っていました
四匹目の雌羊は
人間の子守唄で
柵を越えてゆく羊たちを
数える時に出てくる
たくさんの羊たちに多くの知り合いがいたので
四十七匹の雄羊が
突然やってくることになり
ついでに四十八匹の雌羊も
やってくることになりました

3.

姉妹が寝ている間に
五匹目の雄羊は合計九十五匹の羊たちの
来客を数えることになったので
家の柵の前で待っていました
六匹目の雌羊が家の柵を飛び越えると
七匹目の雄羊も八匹目の雌羊も
そして九匹目の雌羊も十匹目の雌羊も
ぴょこりぴょこりと飛び越えてきました
柵を飛び越えてきた九十五匹の羊たちの中には
やんちゃな子羊も混ざっていて
子羊ではビールを飲める年齢ではないので
五匹目の雄羊が子羊の家へと一緒に連れ帰ってゆき
また戻ってきました

4.

月のない夜に
集まった百匹の羊たちは
春に刈り取られる羊毛が
人間たちが冬に着るダウンジャケットになる話や
いい羊毛がとれる子羊を
産み育てるために
雄羊と雌羊が勝手に結婚させられる話で
盛り上がっていました

5.

もう真夜中は過ぎて
羊たちは
ビールを飲みながら
黒くて暑い夜空の
輪郭を削るようにして
窓辺に浮かぶ雲の
小さな切れ端を
飲み込んでいて
まるで牧草のように
深夜の暗闇を食べていました
百匹の羊のお腹がふくれるころには
朝の陽が昇りはじめていて
夜空の星が消える頃には
百匹の羊たちはもういなくなっていました


自由詩 羊たちのまどろみの宴 Copyright りゅうのあくび 2008-08-03 10:21:44
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