「モナとウルリカ」
ソティロ
「モナとウルリカ」
わたしたちは
洞窟でのくらしを捨てて
草原へ歩いた
ひとたび外へ出ると
外は夏で
緑色が輝いて輝いて
目を瞑っても
しばらくまぶたの裏に
残ったくらい
雨が降ったから
木陰に入っていった
スコールだ
常緑樹の葉の指の隙間から
しと、しと
零れてくるけれど
これぐらいがいいよね
なんていって
笑っていた
髪が濡れても
服が濡れても
外は暑かったから
少しも気にならなかった
そのうち雨の中へ出て行って
くるくるくる、くるくる
と廻りながら泳いでいった
雷がやってきて
雲のなかを転がっている
びっくりして
誰かにひどく怒られてるみたい
そんな気持ちになって
しゃがんで
おへそを隠したけれど
その時だって
こっそり笑っていた
わたしたちは
確かめ合うこともせずに
ただただ笑って
はしゃぎまわって
疲れて
静かに座っていた
そうしてときどき
気ままに手をつないだ
雨がやんだら
あたりは潤っていた
緑に残った水滴たちが
ひかりを跳ね返して
きらきら光合成
虹は見つからなかったけど
そんなの想像してしまえば
それで済むことだった
わたしたちは
濡れた服を全部脱いでしまって
ぎゅっと一絞りしてから
木の枝を借りることにした
ごつごつした丁度良い枝
風が吹いてきて
布をはためかせると
まるで旗を掲げたみたいで
満足して見入っていた
すっぽんぽんのわたしたちは
旗の下で踊ったり
くすぐりあいながら遊んだ
裸は無防備だったけれど
そのぶん多くのものを
受け止められる気がした
世界はきっとうつくしい
だからもちろん
わたしたちの裸体も
うつくしくひかっていた
おなかがすいたら
背の低い樹木に生る果実をたべた
悩殺されるくらい熟した
甘い甘い果物をみつけた
一かじりで汁がこぼれて
くちのまわりがべたべたになった
おなかがいっぱいになって
食べ残した分はその辺に捨てた
そうすれば虫も食べるし
新しい芽が出ることくらいは
知っていたから
乾いた服を着て
わたしたちはまた歩き出した
旗のままにしておくのもいいけれど
やっぱり服は服だった
その頃にはもう
帰り道を忘れていたけれど
そんなのどうでもいいし
どうしようもないことでもあった
太陽と逆の方向にあった
森の中へ入っていくことにした
森の中へ這入っていくと
そこは海の中に似ていた
底へ向かうほど
ひかりは届かなくなるし
時々ふしぎな音がしていた
怖かったけれど
好奇心のほうが強かったし
こちらが脅かさなければ
殺されることもないだろう
という信頼、それから
殺されても食べられるだけだ
という安心もあった
わたしたちは列になって
ぐんぐんと奥へ進んだ
なるべく安全な方向を選びながら
潜っていくと一層
森の空気は濃くなっていった
向こう脛に羊歯のあたるのが
くすぐったかったけど
それに馴れたころには
森の中を眺めて歩く余裕ができた
稀に倒木が木漏れ日を作っていて
そこへ腰掛けて休憩した
――きれいな鳴き声が聞こえる
歩いている最中鳥を探して
葉の陰を見上げているうちに
わたしはひとりになっていた
振り返っても誰もいない
叫んでも返事はなかった
ひとりぼっちになると
深緑が迫ってくるようで
とても心細かったけど
先に進むことにした
戻るなんて考えられない
もうどっちからきて
どっちへ進んでいるかも
わからなかったけど
森の先を見てみたかった
森を抜けたところで
会えるかもしれないとも思った
きっとひとりになっても
同じように考えると思ったから
ここで捜すのをやめるのは
裏切りだろうか
うん、きっとそう
でも、裏切りだったとしても
そうやって
なんども、
なんども
わたしたちは繰り返す
たのしいことのために
きれいなもののために
歩き出したとき
足もとに
貝殻が落ちているのを
ふしぎに思った