手品
kauzak
夕方の上り通勤快速は
降り出した雨を切り裂いて走る
車内は意外に混んでいて
ロングシートは満席で
吊革に片手をぶら下げて
流れる車窓を流れる雨滴を
ぼんやりと眺めていた
雨の駅に停車して
再び電車が動き出す
その瞬間に淡い気配を感じて
横に立つ若者に視線を向けると
わずかに震える手を添えた肩から
一匹の蝶が飛び立った
蝶は僕の前を
フラフラ落下するように
左から右へと飛び去り
車内の人混みに紛れてしまう
手品のような手つきに
僕は若者の顔を確かめるけれど
涼しい顔をして窓の外を
見ているだけだ