ビヨンド
木屋 亞万
世界で最も美しいのは4度なのだそうだ
黄金比について熱心に研究しているという友人が
居酒屋で生ビールを飲みながら言っていた
モナリザの微笑みを温度で表せという問いに
4度と答えた人が統計の半数に上ったのだそうだ
人間が最も美しく感じる角度もまた4度
真っ直ぐなようで少し上がっているところに
奥行きを感じ、視覚的注意を喚起されるらしい
多くの樹木が4度だけ歪んでいるという報告を
外国の研究者の名前を出しながら説明していた
私は彼の話を聞きながら
なるほどそうかもしれないと思った
もしかしたらこの焼酎のロック
水温が4度かもしれない
グラスの縦のラインの角度も4度
あるいは氷が解けていたので
アルコール度数も4度くらいかもしれない
アルコールの糸が渦を巻く
焼酎が美しく感じられ
呑むのをためらっていると
雪山も冬の湖も4度なのかもしれないと
私の思考は景色へと移り変わっていく
オーロラは何度で出るのだっけ
ダイヤモンドダストはまた何度だったか
嘘はどうだろうか
仏の顔も三度までというが
それでも嘘も四度目にもなると
少しかわいげが出てくるものかもしれない
幼少の頃から嘘つきで有名だった彼が
また嘘を言っているのかもしれないのだが
それでも嘘だと言い切れない感覚が
私の中にあるのも確かだった
4度、
とても美しいもののような気がする
これから少し注意してみていよう
美四度研究の論文を書き上げたらぜひ読ませてほしい
そう伝えると彼は上半身を4度退けて
それから4度だけ小刻みに頷いた