遥かな夏のスケッチ
銀猫



細い金属質の陽射しが
容赦なく肩に、腕に、
きりきりと刺さって
サンダルの真下に濃い影が宿る

忘れかけた思い出は
向日葵の未成熟な種子に包まれ
あの夏
深く青かった空は
年老いた給水塔の上で
まだ雲を浮かべている


わたしの断片を探す列車に乗り
アナウンスが懐かしい駅を教えるたび
ささやかな歴史は
レールに沿って後ろに迫るが
戻ることのない夏は
瞼の裏側でだけ眩しい

流れる景色の向こうに
海が見え隠れ
溜息は
淡いさかなが放つ気泡となって
海草の合間を漂う

かつてのきんいろは
骨格の変わったわたしの背中に
思い出の色素を染み込ませただけで
ここには無い


スケッチブックに
青ばかりの絵を描いていたのは
わたし

ゆびさきでそっと
水彩の凹凸をなぞると
まだ潮の匂いがする





自由詩 遥かな夏のスケッチ Copyright 銀猫 2008-07-31 21:58:25
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