世界のしくみ
小川 葉
村のしくみ
西の空に
捨てられた村がある
誰もがそこで
暮らすことができた
今日は村長さんの
誕生日だった
まだ生まれてなかった
+
お風呂のしくみ
お風呂の蓋が
道端に落ちている
いつか来た道を
家族は通り過ぎて行った
今日は誰も
お風呂に入らなかった
まだそこに家はなかった
+
時計のしくみ
腕時計を切りとって
セロハンテープで腕に貼る
記憶を留めてみても
時は過ぎていくのだった
今日は目覚まし時計が
故障した
まだ誰も起きてなかった
+
夏のしくみ
寄せてはかえす
波のようにうちわで扇ぐ
扇いだのは
暑いからだと後に知った
今日は懐かしい
ヒグラシの声を聞いた
耳をすますと
秋の波音も聞こえた
+
ご飯のしくみ
炊き立ての
ご飯のようにお茶碗に盛る
土を
たらふく食べて
人は植物になった
今日は水やり係の田中君が
学校を休んだ
まだ土の中だった
+
おちんちんのしくみ
おむつの中に
人のようなものがある
おしっこすると
ぶるぶるふるえた
今日はぼくが
おちんちんだった
恋をするには早すぎた
+
おまんこのしくみ
ふうせんを膨らますと
中に赤ちゃんがいた
泣き声をあげて
そこから
生まれてきた
今日は
誰かの誕生日だった
出口はまだ見えなかった
+
家族のしくみ
時の隙間に
知らない人がいる
知らなくても
その人は家族だった
今日は
お母さんという人に会った
光はまだまぶしかった