ヒミツ
小原あき
暇つぶしに読んでいた夫の漫画本に
ヒミツが挟まっていた
それはちょうど主人公が
携帯電話のメールを確認している場面で
お札と同じくらいの紙切れだった
(本当のお札だったら良かったのにな)
枚数を数えた
あんなに開放的な人なのに
こんなにもヒミツがあるなんて
夫婦になってもわからないことなんて
本当にたくさんあるんだと思った
夫婦は所詮
二人でひとつでも
繋がっている部分はすべてではないんだ
見てはイケナイ
数十枚はあるだろうヒミツを
同じページにしまおうとしたけど
なんだか気になって
気になって
気になって
気になって
上から四枚のヒミツを
読んでしまった
一番上のヒミツには
わたしに隠れてこっそりお菓子を食べてしまったこと
二番目のヒミツには
会社の若い女の子で一人気になるコがいること
三番目のヒミツには
小学生の時、ねりけしを万引きしたこと
四番目のヒミツには
本当は本屋になりたいという夢
わたしはそうやって
誰かのヒミツを
今までに何度も見てきた
小さな頃は
それがイケナイことだとは知らずに
見つけた限り
読みあさった
父の書斎の本棚に
実は父と祖母は血が繋がっていないという
衝撃的なヒミツを読んだ時は
これでおしまいにしようと
心に誓ったはずだった
夫のヒミツを本棚にしまうと
わたしはわたしのヒミツを確認しにいった
それは
文庫本の並ぶ
小さな小さな本棚の
一番好きな小説の
一番好きなページに挟まれていた
一番上のヒミツは
へそくりは料理本の間に挟まっていること
二番目のヒミツは
幼稚園の時、おもらしがなかなか直らなかったこと
三番目のヒミツは
夫の密かな夢のために少しずつ貯金していること
四番目のヒミツは
鸛が来ない本当の理由
その人は
わたしの四番目のヒミツまで読んで
そこからはもう
読むのをやめてしまったらしい
四番目のヒミツだけ
濡れて乾いた紙みたいに
しわしわになって
だけど、大事に
丁寧に
他のヒミツと重なっていた