履歴書
たもつ

 
 
冷蔵庫の中を
クジラが泳ぐ
今日は朝から
ジュースが飲めない
つけあわせの菜っ葉は
鮮やかに茹で上がり
わたしは指と指の間を
紙のようなもので
切ってしまった
 
 
+
 
 
その先に直売所はあった
日当たりの良いところで
年をとった女の人が
あやとりをしていた
子どものころ隕石を拾ったのよ
と時々話す人だった
 
  
+
 
 
靴はほどけていった
靴紐だけを残して
夜の玄関に波はうち寄せ
明日になれば
貝殻などのいらないものも
幼い手に拾えるだろう
 
 
+
 
 
繰り返される
つぶやきや
つぶやきのようなもの
珍しいセミの鳴き真似だ
と、あなたが言うので
逃げていかないように
そっと窓を閉めた
 
 
+
 
 
子供みたいに
あなたと虹をかじっている
臨時列車の
奥に座って
お線香の匂いで思い出す街の途中
誰かの両親みたいに
二人は眠ったのだった
 
 
+
  
  
傘を買った
いっしょに傘たても買った
犬は買わなかったけれど
買ったテレビで犬を見ていた
という気がするので
傘と傘たてを買いに
夕暮れの外へ
ハンカチのように出かけた
 
 
+
 
 
色鉛筆で履歴書を描く
色の足りないところは
他の色で埋めた
長い戦争が終わり
母は鯉や赤犬を食べて
生きのびた
わたしはその体のどこかで
まだ卵にもほど遠い
何かの形をしていたと思う
  
 


自由詩 履歴書 Copyright たもつ 2008-07-29 20:09:45
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