無情
星月冬灯
私は友人を食べました
お腹がすいたのです
すきすぎて
すきすぎて
しかたなかったのです
私の前を友人が通りかけました
おいしそうな
おいしそうな
友人
かわいらしいあなたを
思わず食べてしまいました
私の前を通りかかったのが運のつき
諦めて下さい
大丈夫
悲しまないで
私はあなたを大切に食べたのだから
あなたはよく味が出ていておいしかった
おいしくて
おいしくて
思わず涙が出ました
たくさん
たくさん
涙が出て
気付いたらあなたになっていました
そうです
私は生まれ変わったのです
私は私でなく
あなたという人間に
なんて素敵でしょう!
鏡に映したあなたは
やはりとてもおいしそうでした
右手をかじってみました
味はかわりません
左手をかじってみました
味はかわりません
鏡に映し出されているあなたは
あなたを食べている
おいしいですか?
これでおあいこ
さあ
もっと食べて下さい
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐ
よくかんで
もぐもぐもぐ
もぐもぐもぐ
そうして
あなたも私も
食べ尽くされてしまいました