錯覚
アオイリョーキ

荒野だと思う
忘れられた
木の影をまがると、例外なく砂嵐だ
そこから飛び出してくる無数の手が
後悔や焦燥を
閉じ込めていたのに引っぱり出そうとする
それに気付かないで
なのに逃げようとする
きっと、砂が目に入るからだ
途方も無く
夕暮ればかり
赤い空ばかり見上げている

雨が降り出しても気付かないで
ただ濡れていく
それを
受け止めている
という錯覚
流れる事がやさしい
という錯覚
そんな夢だけ
追っているような気がして

境界線まで来て
荒野を抜け出そうとする
真っ暗なただなかで
光を追ってきたその先に
見えた幻が
すべて忘れて
生きている
木の枝が揺れている
風に揺らいでいる
軋む音が
怖くなって
光の中へは飛び込めない

このまま荒野で
何度目かの砂嵐を受け止められるようになれば
きっと
雨が体を濡らしていることに
気付けるようになるはず
月がある事に気付けるはず
散りばめられた星に
包まれて
穏やかに飲み込まれることを拒絶できるようになるはず
いつか
砂嵐におそわれても
受け止められる日がくるはず
いつか
枯れた海に目を向けられるようになるはず
錯覚を受け止めて
雨を飲み込んで
何ももう枯らさないように
砂を飲み込んでも
取り込んでも
枯れないように
空気を見つめていけるように


自由詩 錯覚 Copyright アオイリョーキ 2008-07-28 22:39:26
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