「妊婦のロボ子さん」
ベンジャミン
壊れてゆく世界の音に耳をかたむけながら
だいぶふくらんだお腹を撫ぜて
ロボ子さんは懐かしむように目を閉じる
かつて自分が生身の身体だった頃の
あのむせるような夏の匂いや
頬をすりぬけてゆく風の感触
センサーで感知するのとはまったく違う
あらゆる感覚器官で受け止めていたもの
そのすべてを思い出そうとしている
壊れてゆく世界の音に耳をかたむけながら
だいぶふくらんだお腹を撫ぜて
ロボ子さんは懐かしむように目を閉じる
そして
どうか生まれてくる新しい命が
やわらかい肌でくるまれた
かつての自分のようであればと
シャッターをきるように刻まれてゆく景色を
スライドショーみたいな映像に変換して
セピア色の記憶で伝えようと
ふくらんだお腹を撫ぜている