赤色夜叉
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銃声が鳴り響いたもんだから
運動会でも始まったのかと思い
颯爽とクラウチングスタートを決めたんだ
だけど走ってきたのは兵隊さんで
銃口をこちらに向けるもんだから
慌てて草群に逃げ込んだんだ
それは徒競走というよりは
鬼ごっこに近いサバイバル
誰が敵だか分からないから
全員殺せと教官は叫ぶ
ところで貴方は何故戦わないのですか?
犠牲の上に成り立つ強さは
本当は一番の弱さなんだって
そういう最もなことを言う奴が
戦場では真っ先に死ぬと
教官は笑いながらそう言った
悔しいけど何も言い返せなかった
誰だって死ぬのは恐い
ところで殺すのは恐くないのですか?
僕は扱い慣れないマシンガンを抱えて
這うようにジャングルを進み続けた
迷彩色の兵士が後ろから
僕に向かって銃を撃ってきた
反射的に僕は銃を撃ち返した
左脇腹に弾丸を受けた兵士は
大きな悲鳴を上げて倒れこんだ
僕は恐くなって逃げ出した
死に対する恐怖ではなく
最期の瞬間を見届けることで
汚れてしまいたくなかったんだ
もう手遅れだと囁く風を振りほどくように
何度もこんなことを繰り返せば
奪うことに慣れてしまうのだろうか
仮に最後まで生き延びたとしても
人間としてはおしまいなんだ
その手を赤色に染めた時点で