艶めく花の香に
いすず

あのとき、覚えてる?
時間ぎりぎりに、抱えた花束を後ろに持って、
あなたは駈けてきたね

予算内で、たくさんの花を欲しかったから、
というあなたは、
くたびれたような、開きかけたカサブランカを
5,6本もたばねて見せたの
包み紙は安っぽいセロファンだったけど、
その心意気が嬉しかったの 覚えてる

いっしょに勉強している間、
ずっとどきどきしていたの
時々、他の仲間とはなしている内容に
コメントをして、
それにあなたが相槌を打って、
なんとかなりたつ会話

おおらかにはなす同僚のあの娘が羨ましいとも
でも、わたしのまえで
眼を細めて
リラックスして本を読むあなたのあたたかな背が
今も、脳裏に浮かぶ

あなたが、もしも・・・
でも、そんなことはいわないから

あなたが、あの娘と別れたとも聞いたの
十年くらいになるのに

快活にシャイにはにかむ癖
今も、そうですか

あなたのそばに、あのときの
ふたりの想い出は、ありますか

重たげに匂いやかに香る
あの、艶めく花の香

今も、あの香りは胸をみたします

あのときの、まっさらな無垢な色のままで
あなたが、持ち帰ったカサブランカの大輪のままに




自由詩 艶めく花の香に Copyright いすず 2008-07-21 21:42:53
notebook Home