銀河鉄道に
セルフレーム

銀河鉄道に

此処はきっと
銀河鉄道に
呑み込まれてしまったのよ


銀河鉄道に


「此処に夏が訪れる事はありません」

僕が此処に引っ越してきたのは、この一言に惹かれたから。
不動産屋で見つけた、あまりに安い物件。
その注意書きには、こんな事が書かれていた。

「此処の空には銀河鉄道のレエルがひかれています
此処は桜がありません
此処に夏が訪れる事はありません」

どんな所か、知りたくなった。

真冬の海沿いに、その物件はあった。
管理人は白髪の老婆で、僕に向けてこう言った。

「此処はきっと、銀河鉄道に、呑み込まれてしまったのよ。
夜空を走る銀河鉄道が、天の川の聖域がよく見えるこの土地を呑み込んだのよ。
此処に住む、私達を、南十字(サウザンクロス)に連れて行くために」

その時は、よく意味が分からなかった。

引っ越してきてまもなく、あの老婆が死んだ。
葬儀が終わって、夜空を見上げた。

―銀河鉄道。

浜辺の月が見えるところから、銀河鉄道が走ってきた。
黒光りする鉄道の窓に、老婆の姿が見えた。

老婆は、微笑んで、目を瞑った。

こんな遠くからでも、見える。

老婆の言っていた事が、解った気がした。


後日、銀河鉄道が走ってきた場所に行ってみた。
そこには廃駅があって、線路の近くに線を引かれ、倒れた看板があった。

「銀河鉄道発車場所」

―解った。

あの注意書きと同じ、老婆の文字だった。

あの老婆自体、銀河鉄道に意識を呑まれていたんだ。

―だから、だから・・・―

だから、銀河鉄道の事を僕に教えてくれたんだ。

銀河鉄道を、忘れない為に。
常に自分の意識の中に閉じ込めておけるように―・・・


老婆は、サウザンクロスに無事着いただろうか。

あの事があってから、僕はこの住居がますます好きになった。
銀河鉄道を見られる土地なんて、此処以外ないだろう。


きっと僕も、銀河鉄道に連れて行かれることを望んでいる。


―銀河鉄道に



自由詩 銀河鉄道に Copyright セルフレーム 2008-07-21 17:34:46
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