ミ ミ
吉田ぐんじょう
ミミという女の子がいて
今もどこかで生きています
彼女は
ゲームセンターのUFOキャッチャーで
お母さんにキャッチされ
取り出し口から生まれてきました
生まれたての彼女は
背中にすこし毛が生えて
それで耳がとても大きかったので
お母さんが ミミ と名付けました
ミミのおうちはどこもかしこも
四角いおうちでした
お母さんは家の中で
刃物を握ってばかりで
目や口元をひからすばかり
ミミにはご飯もくれません
お父さんは初めからいませんでした
その代りに
おじいちゃんとおばあちゃん
という名前の木の胸像がふたつ
リビングに並んでおりました
そのうちミミは痩せて目ばかり大きい
お母さんにそっくりの女の子に育ちました
ミミの服はいつもたばこくさいのです
それはお母さんがたばこを吸うからです
そのお母さんは春の終わりに
刃物を握ったまま浴室に入り
水の満たされた浴槽で眠っております
あんまり起きないので とうみん かもしれない
でも今は夏なので とうみん ではなくて
なつみん というものなのかもしれない
ミミは水道水を飲んでちょっと膨れて
おなかがすいたと手を見つめました
でも 指は
全部たべてしまってもう無いのです
仕方がないので
痩せた足で飛び跳ねて遊んでいます
あんまり体が軽すぎるので
飛び跳ねることを覚えたのです
何も教わらないのに
飛び跳ねることと食べることだけは
自然に覚えたミミでした
おなかがちゃぷんちゃぷん
音を立てて
半透明な光が射し込んでいます