現
エチカ
寝付けない夜だった。
時計の針は午前2時を指している。
不気味なほど鬱蒼とした夜に一人の女と出会った。
女はただそこにとどまることを知らない生き物のように
夜の中で頭をもたげている
「わたしは物悲しいのです
ここであなたを待っていました
私は夜を纏いながら
一切の快楽を脱ぎ捨てました」
女の足元には脱ぎ捨てられた快楽が一枚
ひらり、と笑っている
それは一滴の影であり
垂れ流された墨汁のように澄んでいる
まるで、一筆で描いた女の髪のようであった
すらりとしたその出で立ちで、
女はやんわりと嘲笑し、私をためしている。
じっとりとした湿気を帯びた空気が訪れ、
夜の旅人は、扉を開けろと私に言う。
私は夜を嫌う
そこに在らんとするものは
静寂やら絶望という仮面をかぶった夜だからである
あるいは嘆きに似た夜の一人芝居
夜という名の塵芥
夜は時として唐突であり
真夜中のふりをして
断片的にひゅるりと人の心の隙間に滑り込む
夜のネオンのように下品だ
私は扉を開けて、
その女にこういった
「ここはあんたのような女が来るところじゃない、
私はあんたに憐憫など持ち合わせちゃいない
とっととどっかへいっちまいな。
ここでは、快楽しか必要としない。
それを無くしたあんたはただの空蝉だ」
そういうと、そこにいた女は静かに姿を消した。
夜はまた一陣の風と共に、鬱蒼とした影を連れて過ぎ去った。
煌々と照らされる読書灯の火を消すと私はまた深い眠りについた。
夜はまた、夢の中に幾人かの女を連れてくるだろう。
「こんばんは」と。誘いかけるように。