最後の細胞
umineko
だれも
誰もあなたを奪えないよ
だれにも
盲導犬を連れた
女性の方の講演を聞く
視力を
やまいで奪われた
階段があります
ではなくて
のぼりの階段がありますよ、と
教えて下さいね
当たり前のことが
私たちには出来ないのだ
だれも
誰もあなたを奪えないよ
だれにも
あなたの指が
詩を
紡ぐのをやめたとしても
あなたを
あなたの中の詩を
誰も奪うことは出来ない
もう
あなたのくちびるが
詩を語らなくなったとしても
あなたの
ひとつひとつの細胞が
見事なまでに詩を奏で
私にうたうだろう
ありがとう
元気だよ
少し 暑いね
夏 だからね
光を奪われる
記憶を奪われる
言葉を
詩を
私たちは
とても無力だ
のぼりの階段がありますよ、と
伝えること
信じること
髪の毛ほどの危うさに
寄りそって
私たちは
生きろ
生きて証明せよ
あなたのやわらかい
透明なちから
だれも
誰もあなたを奪えないよ
だれにも
あなたの
最後の細胞が
ミトコンドリアの
遠い記憶が
最後の
電子を放つとき
あなたの
身体は詩に満ちて
私を
包み込むだろう