時の隙間
木屋 亞万
時が止まると
ほんとうに
すべてが無防備
動かない、だけでなく
浮遊している
力が働いたまま
宙ぶらりんの、世界
時が動いている、とはいっても
今、は
実は何一つ動いていない
のではないか
一度も定まったことのない未来へ
今だけを頼りに進んでいる
過去は確実に刻まれてはいるが
それさえどこに残っているやら
もしも自分が死んだときに
自分が死んだ瞬間の世界を
命の終わりとともに
切り取ることができたなら
その世界を私の世界として
譲り受けることができたなら
どれほど素晴らしいことだろう
生きている人たちは
変わりゆく今を楽しめばいい
死んでしまった私たちは
永遠に変わらない、瞬間を
楽しみながら暮らしていくさ
7月17日14時12分37秒の世界が
私の世界なら
死を通して固定された
世界の美しさを見つけるために
旅に出るだろう
誰にもじろじろ見られることはないが
美しい発見があっても誰にも伝えられず
ただ自分のためだけに探し
自分のためだけに喜ぶしかない
人はたくさんいるけど誰一人動かない
虚構の中でよく言われるような
欲望の発露のような行為も
永遠に独りであることを自覚した途端
空しさを生み出す元凶にしかならない
それならいっそ綺麗な空を
探すために出かけたほうがいい
空も雲ももう逃げないから
一つずつ目に収めていこう
太陽が昇ることも沈むこともない
雨が降ることも風が吹くこともない
太陽を沈めるためには私が太陽から離れ
昇らせるためにはまた近づくしかないのだ
動かぬ地球の変わりに私がぐるりと一周して
停止した瞬間を拾い集めて一日を作っていく
雨の降っているところでは
水滴が浮いている
私は傘をさして歩く
降らぬ雨に濡れることはないと知りながら
生きていた頃の名残として私は、いつも傘をさす
風がないと荒野も森も死んだように
静まり返っている
そうだ、ここは死の世界だと
改めて呟いてみたりする
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象徴は雨