夏の出会い
ユウタ
僕は家のロフトをみつめている
への字型に口を開けた口のみの妖怪が
僕を見下ろしているからだ
ピンクのベロも出していて
僕のすべてを食いたそうにしている
かすかによだれの匂いがした気がした
あいつは悪い奴だ
直感で悟る
あんなへの字型に開いた口が出来るのは
漫画でよく見る悪者集団の下っ端だけ
かつあげ、リンチ、エトセトラ
絡んでる時に顔を上げて相手を見下し「あーん?」と
言いながらよくする口だ
だからあいつは悪い奴、だけど下っ端
食べられてたまるもんか!っと
眼力を強める
途端にげんなりした
あいつのベロが突然ピンクの枕に変わったからだ
僕の彼女のよだれがたっぷり染み込んだ枕
あぁ、げんなりする
口も布団に姿を変えていた
あいつの口は折り畳んである布団の側面だった
あいつのベロは布団に挟まってはみ出てる枕だった
僕は目をピタピタさせて驚いた
この夏、人生初の妖怪を見たんだ
少しだけ、本当に少しだけ
あの妖怪に食べられてみたくなって
切なくなった
あぁ、どうやら僕は
取り憑かれたみたいだ