花と戸棚と着信音
吉田ぐんじょう


ポストには請求書ばかりが届き
携帯電話の受信フォルダは
迷惑メールでいっぱいだ
履歴書を書けば誤字脱字ばかりで
修整液はとうに使い切ってしまったし

紙屑ばかりあふれる部屋で
どうしていいかわからない
一日中がさがさと動き回っている


冷蔵庫に入れ忘れた長葱から
虫が生えていた
昆虫図鑑にも載っていない虫だと思う
キャラメル色の頼りなさげな姿態
細い細い半透明の

たぶんすぐ死ぬ虫だろうから
放っておいた

あの虫とわたしとの違いを考えてみたけど
何も思いつかない
案外同じものなのかもしれない


食器棚を開けて中に入る
すこし窮屈だったけどちゃんと収まった
入っていた食器やスプンやフォウクを
全部床に落としたら
豪華な音がして 目の前が眩んだ


ちぢかまって静かに息をし
瞼を下ろすと宇宙が広がる
☆の形をした薄っぺらい星が
瞼と眼球の間に貼りついて
アルミホイルのようにしらしらとそよぐ

こうして見る限りでは
天国も宇宙も案外狭いもののようである


いつの間にか眠ってしまって
外は丸っきりの闇である

握っていた掌を開いたら
白い花が零れ落ちた
なぜだろう
立ち上がろうとしても
花びらばっかり散って
うるさくて仕方がない


遠くで携帯電話の着信音がして
いいや
それともあれは
わたしの笑い声だったろうか


なまぬるい闇
笑った口が裂けて落ち
暗闇の中で三日月となる



自由詩 花と戸棚と着信音 Copyright 吉田ぐんじょう 2008-07-19 09:33:42
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