夏の落とし子
銀猫
湿った夜に
孤独の匂う扉が開いたらしい
今日の陽射しに晒した、
二の腕も敵わない強さで
戻る道を塞がれた
草むらに埋もれる羽虫や
苦瓜の、
生き物のような苛立った肌
何かしらの暗を宿すかたち
負のベクトルに誘う、
語り尽くされた熱は
眠れぬ小鳥の叫びを呑み込み
背中を走る焦燥感だけを
取り残してゆく
現れた扉は青錆が浮き
繰り返してきた溜息の
あてどなさに添うように
闇を綻ばせては
小さな罠を仕掛ける
その鍵を回せば
そこらじゅうを漂う水分が
体内に流れ込み
汗よりむしろ涙となって飽和する
曖昧なかたちをしたわたし
潔く人の姿に戻るため
苦い夏を飲み干そうと思う
舌先を刺す痺れが
そのとき生を語るのだろう