いつか海へでる船
水町綜助

陸があって
呟きがあって
知り合った
冬の夜に
繁華街の路上に
落ちた割り箸の
片割れみたいな
よごれ方は
気に入ってる

夏の
失明する真昼に
無数の甲虫が光って
あぶらぜみが鳴いていた
深緑を身体の中から
焼き棄てるよう
立ちのぼる
煙に向けた
黙祷がよく似合う
その頬には
海があって
カーテンより白い
光がある

さまざまな
それぞれ

集まった小石が爆発したときから
ひとつひとつが
カチンと音を立て
その気の遠くなるほど
多くの音の連なりの先に
血と肉を纏って
あるところに
落ちた
さまざまな
それぞれが
落下の衝撃から
立ち上がり
あるいた

誰かは腕を折ったろう
足を引きずり
胸から落ちたものは
いまでも呼吸が苦しくて
この目に映るものすべて
あまさと

あまさと
美しさが
混じる場所で生まれる
悲しさと
ぶつかって生まれる
いつまでも聞き馴染まない絶叫とに
誘われ
あるきだした
身にまとう風は
キリキリと痛くそして
あるところで
それぞれを知った

  *

いちど動き出しては
とめるすべはないよ
幸いなるかな

  *

たとえば海原のうえ
どこかへ出航したばかりの旅客船
甲板の上で
それぞれ
まためぐり会えばいい

どこかで失ったとしても
鉱物のように研ぎ澄まされた姿で
まだぶつかり続けてきたんだ
そうぶつかり続けてきたんだそれで
僕は舳先の横で手すりに凭れて
遠くの島をみている
君は甲板のテーブルの傍らで長い髪を逆巻きながら
しゃぼん玉を吹いて
君は海と空の間
鳥の飛ぶ位置をみつめている
あいつは船首の一番先に立って
海原の照り返しに
煌めきに発音を刻み
あのこはそのかたわらで
帽子を押さえてる
強い
強い風だ
そして影を緑色の甲板に
深く刻むのは
強すぎる太陽じゃなく
それぞれのからだ
この人のかたちをした
僕だ

この船がどこへ行くかなんて知ったことじゃない









自由詩 いつか海へでる船 Copyright 水町綜助 2008-07-18 02:17:19
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