夜に咲く花 ☆
atsuchan69

境界の打ち水、
風が死んだ下町の昼下がり
狭い裏路地を通りすぎる
黒い日傘を差した女

夜に咲く花が匂う、
鉢植えの月下美人が
錆びた郵便受けの真下に
只ひとつ置かれていた

ようやく陽の涼しい頃に
和柄の千鳥が舞う、
軒に吊るした「氷」の暖簾
かき氷の蜜の色が
何故か童心を甦らせて

簾(すだれ)越しに覗くのは
とおく、夏の夜――

永久に続かない息を
わざと咽の奥で殺して
せめて瞬きをするあいだは、
穏やかな息継ぎでいたい

情欲の諍(いさか)いと、
許されざる恋の修羅を
オレンジの火の粉をとばし
あの蒸せるような夏
ふたり、総てを燃やした

   ※

白鳥座のデネブよ!
夜空の大三角形のひとつ
悲しみを身ごもった星の歌姫よ、
艶やかにソプラノを奏でよ

七彩にかがやく天の川岸に
孤高に咲く 慈しみという名の一輪
嘘吐きで卑怯なこの私を
微笑んで許しさえした 罪の女、

マリア! 

――白い花のひとつよ





自由詩 夜に咲く花 ☆ Copyright atsuchan69 2008-07-18 00:30:53
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