ゆれる
楢山孝介


私の住んでいる部屋の窓にはガラスがなく
ところどころ破れたカーテンと蜘蛛の巣が同居している
それらをすり抜けて虫が来る
上半身裸で寝ている私を食いに来る
寝返りで死んでしまう間抜けな奴もいる

対象が曖昧な罵声をあげながら目を覚ます
ぼろぼろのマットレスに染み込んだ汗を吸いに来る虫は
黒く光る羽根を持っている

痒くて痛い体に水を浴びせ
二十年物の扇風機に向けて股を開く
扇風機の羽根越しに見るテレビ画面は
天気予報でさえ、古い映画のように映し出している
本日の予想最高気温は四十三度
死なないように生きていきましょう
死んだ目をしたお天気キャスターが言う

虫よけのために煙草でも吸いたかったが
そんなものはもううちにはない
昨晩外から投げこまれたライターには
わずかながらガスが残っていた
蜘蛛の巣に火をつける
虫を少しは防いでくれているのに
巣は逃げないから、という理由で燃やす
蛮行をたしなめるように風が吹き
蜘蛛の巣とライターの火とカーテンが混じり合う
炎の向こう側で
昨日よりも暑い今日が揺れ始める


自由詩 ゆれる Copyright 楢山孝介 2008-07-15 22:59:28
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