雨飼い
clef

六月のうちに、
してしまわなければならないことがあった。
思い出そうとして思い出せないまま、今、雨を見ている。

  湿気が増して空気が濃くなると
  呼吸しにくくなるからね
  だけどその分身体は軽くなって、浮くのよ

浮いた身体に落ちてくる雨粒は、
重さが硬さに変わり、
くすんだ蒼になって、
窪んだところから入りこむ。

落ちつく先はわたしでなくてもよいのだから、
道をつくって逃がすこともできた。
だのに、逃がさなかった。
そうやって、蒼くくすんだ雨を飼っている。

雨粒は、ガラス越しに打ちつける雨を見ていた。
帰りたいんじゃないの、と訊くと
ううん、とかぶりを振る。
でも、私がいたから口ごもってしまったのかもしれない。

  湿気でふやけた景色が
  広く見えるのは
  世界からすこし、身を引いているからなの
そう雨粒は云った。


自由詩 雨飼い Copyright clef 2008-07-15 00:06:50
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