気の迷い
佐々木妖精
遠くそびえ立つビル群
人間が高さを競うように
草木は深さを競い合い
私の横たわるこの下で
取っ組み合いの陣取り合戦を繰り広げている
負けるのも勝つのも好きではないと
酒のない酔いに飲まれ
差し伸べた手は空振りして
リードだけを引きずり
黒い犬は走り去る
星のない夜なら
風が芝生を吹き抜けていったとしか思わなかっただろう
彼はどこへ行くのか
進路にもつながる地面に横たわり
目的性を麻痺させ
ぼんやり 裸眼でいる
にじんだ星が一つ、もう一つと手をつないでいく
近眼と乱視が手を結んだ私のために
彼等は手を取り合い
夜が明けるころには
太陽になっている
何億光年と離れた場所から
駆けつけるヘッドライト
とっくの昔に死んでいるというのに
瞬いて手を振る 死者の光
手を伸ばし
彼らの厚意を受け取る
悪酔いでもしてしまったのか
ふと思う
メガネもコンタクトもやめて
ただぼんやりと優しげな世界で
躓き続けるのも悪くない と
酒もなくワケに酔いつぶれ
高みを目指す人や
深みを探るものの邪魔になるぐらいなら
自ら手を放そうなんて
星が形作る太陽を思うと
そんなことを想う