いっそ阿片のように
佐々木妖精

空咳に転ぶ
換気扇の下
フライパンに灰が落ち
洗っても洗わなくても
そこに立つ人はもういない
戻ることのない忠告を
体内に留めようと
タバコを外して息を吸う
吸うだけでいたかった
それだけで満たされたかった
境界線がほしくて色分けをした
煙が沈澱していく
きみの息を追いやっていく
フィルターに這いつくばったところで
冬にいたきみは夏に融け
体温やその色と共にもういない
見えないところへ行った届かない場所を向いた
もう追うことはないだろう探すこともないだろう
怖い夢を見たとかちょっと言ってみただけ
なんて気づいてほしい嘘
ただいまって伝えたくて目が覚めるときみがいた
聞きそびれたのはきみの体重きみが口ごもるその重さ
きみの重さを知るために比べる相手が要るってふざけんな
だからいっそきみごと全部
さよなら

咳き込む色を消したくて
次の煙を探そうと
忘れていた窓に触れる


自由詩 いっそ阿片のように Copyright 佐々木妖精 2008-07-14 11:57:46
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