分娩台のシュプレヒコール
板谷みきょう

大切だったと
気付いたりするのは
随分と
経ってからのことが
多い

あの感触は
不快でしかなかったりして
そんな風に 
思えてたことに気付いたのが
昨日のこと

生暖かいそのぬめりを
欲していたのに
どうしてたんだろうか

例えば
海鳴りだ

季節外れの
浜辺だったりするのに
鼓動に
潮騒を聞いたことがない

身を焦がす想いも
それなりに
諦めてしまい
抗うことさえも
忘れていた

封印させた半分だけの月

その全てが
あの
秘密のアパートで
荒い息遣いを重ねたのだ

公安にマークされてるとも知らずに
随分と
無茶をしたものだ

悲しみを慰める為に悦びを求めていた訳もなく
いつ会えるのだろうか

寄り添えば
公園のベンチは
寒すぎて
アスファルト舗道を
意味もなく
歩いたはずで
そうして
凍えながら
夜明けを
待った
もう
逢えないのだろうか

見せ掛けの幸せを売り物にできる程
豊かでは無かった
事実
あの時
検挙されてしまったことも

思い通りには
生きていけない

望みどおりに
死ねないの

だから

後悔するのだろう


自由詩 分娩台のシュプレヒコール Copyright 板谷みきょう 2008-07-13 22:46:00
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