鳥瞰図をなくしたとき
茜井ことは


手探りで歩くことの恐怖が
大いなる躍動に変わるとき
広々とした都会の中でも
絡めとられてしまいそうな木々の中でも
辿り着きたい場所というものが
現実には存在しないくせに
まぶたに浮かぶ
そんな夜を何度も越しました


庭を散歩すると
満足はするのですが
なぜ目に見えない柵で
世界というものを区切ることができ
その中に立つだけで安心を覚えるのか
自分の不実さを責めたくもなる



かつて抜け落ちた髪の毛が
春風に浮動させられる
かつてあたしだったものは
自由になり
保障を失い
境界というものを捕食する



5階の窓から
空を眺めるようなものです
広く、高く
一面を見渡せるような気分になっても
空のすそ野は
ビルにも山にも踏みつけられ
知覚できない世界の存在を暗示している



鳥瞰図をなくしたとき
この世は一転して冷たいものとなり
新たに見い出した理解を蹴とばして
羽のありかも隠してしまった








自由詩 鳥瞰図をなくしたとき Copyright 茜井ことは 2008-07-13 19:16:46
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