海辺の詩集
嘉野千尋


 *灯台

   かすかにまだ
   光っている
   間違えたままの、
   やさしい思い出
   わたしの幸福な思い違いを
   あなたは
   そのままにしてしまったから
   残酷なやさしさに生かされている
   本当はもう、
   さよならをしたかった心



 *梔子

   初夏
   木漏れ日に目を細め
   恋しいひとが
   こちらにむかって
   やさしい腕を差し伸べたきり
   神話の中のダフネのように
   物言わぬ樹になっているので
   わたしも何も言わず
   差し伸べられた枝先に
   白い花をつけていく
   これは君の指、君の髪、君の頬



 *地球照

   あなたを映そうとして
   欠けていくしかなかった
   わたしの心が
   いつか金色の糸となり
   消えようとする一瞬に
   欠けていった
   その傍らで
   照り返しのように
   あなたを映して輝いたこと



 *潮騒

   今日、君に
   さよならをいう
   心のどこか
   遠い海に明け渡した場所で
   君の刻んでいた鼓動が
   さよならをいう




自由詩 海辺の詩集 Copyright 嘉野千尋 2008-07-13 19:15:14縦
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