色のない種
麒麟

見渡す限り、白い世界がどこまでも続いている
ある一点にだけ古びた椅子があった
木片を適当に組み合わせた揺すり椅子
どこからか現れた白髪の老人が腰掛けた
皴枯れた手に一つだけ持つ
“色のない種”を両手に包み込んで

老人は目を開かなかった
やがて椅子との見分けがつかなくなる頃
両手だった場所は記憶され
世界の中心として刻まれた
はずだった

それは僕らが初めて見た記憶
彼の種はニセモノだった

白一色の血脈に
空の青
暮れゆく赤
月の黄色が流れ込んだ
中心へ流れ込んだ三色は
透けた管を破り
徐々に全てを滲ませた
原色ではいられなかった

やがて黒い世界がどこまでも続くようになった
椅子だけは変わらずそこにあった
次の者が訪れるまで
椅子はゆるりと揺れていた


自由詩 色のない種 Copyright 麒麟 2008-07-11 03:46:51
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