未来ちゃん
吉田ぐんじょう

同級生はドラッグストアで働いていた
名前はみらいちゃん と云った

休みの日には呼び出されて
公園を匍匐前進させられたり
炎天下の坂道を延々往復させられたり
首を革紐で縛られたり
草を食わされたり 色々した
それでも甘んじて受けていた
みらいちゃんしか遊んでくれる人が居なかったから

今考えるとあれは遊びではなく
一種のプレイだったと思うんだけど
まあそれはそれで興奮したし
見下ろすみらいちゃんもやたらにハアハアと興奮していたし
同病相哀れむというものだ
少し違うか

ある日
みらいちゃんが働くドラッグストアに連れてこられ
監視カメラがあるけど
あれは張りぼてだから絶対大丈夫だ
と 万引きに行かされた

リップグロスとマスカラと制汗剤
それから何に使うのか知らないが
ラテックス製コンドーム三箱

それらを全部盗んで
店を出るときつかまった
元締めみたいな女の人だ
いやに爪の食い込む細い指をしていた

みらいちゃんが待っている筈の空間はぽかんと空いていて
わお と思った
それしか思うことがなかった

それから事務所という場所に連れて行かれて
何時間か説教を食らった
盗んだものを全部並べられ
欲しかったなら何故買わない と言われ
わたしが欲しかったわけではないので
何故買わないのかは分からないと答えると
頭をぶん殴られて ちょっと笑えた

翌日学校へ行ったらば
みらいちゃんはもう友達ではなかった
ピンク色のどろどろした
よく分からない生物に変わっていた
そのどろどろが他のどろどろにくっつかって
わたしのほうに押し寄せてくる

廊下に押し倒されたとき
窓からいやに青い空が見えた
何もかも全部嘘くさいなあ
涙も出なかった



自由詩 未来ちゃん Copyright 吉田ぐんじょう 2008-07-11 00:49:58
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