ホコテンのひと
恋月 ぴの

みんな大好き!
と叫んだアイドルがいた

その場の誰もが
「みんな」には自分も含まれている
と信じようとして
アイドルの名前を大声で叫んでみたりする

「みんな」
そして「わたしたち」
それらの意味を今さら探ったところで
何になると言うのだろう

「わたしたち」ということばは絶えて久しいのだから
ホコテンに集ったひとびとは
常に「個のわたし」の集合体でしかなく
「みんな」ということばの生み出す状況に寄り添いながら
終わりの無い孤独感を紛らわそうとする

あの事件のせいでホコテンがひとつ無くなって
中央通りの狭い歩道を行き交う人々は
いからせる肩に当った他人の痛みなど思いやろうともせず
フィギュアの性器へ差し入れた人差し指の感触に妄想を膨らませて

みんな大嫌い!
と叫ぶひとりの男がいた

その場の誰もが
「みんな」に自分は含まれているのかなんて
疑問を差し挟むはずもなく

昔は竹の子族だったという万世橋交差点付近から
日は昇り
ゲルマニウムラジオのダイヤルを回す


自由詩 ホコテンのひと Copyright 恋月 ぴの 2008-07-10 12:25:34縦
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