夜釣り
北村 守通
生暖かい
風が吹く
油の臭いが
鼻をつく
イソメでぬめった
指先で
何本目かのビィルをあける
ゆらゆら
揺れる
電気浮き
つられた
人魂
ゆらゆら
揺れる
困ったもんだ
見られながらの釣りは苦手だ
さりとて
どいて下さい
とは言い難い
向こうさんに
どかせるだけの正当な理由もない
仕方がないので
仕掛けを少し手前に引き戻す
ゆらゆら
水中
電気浮き
人魂
慌てて
ついてくる
一つ
二つ
三つか
四つ目
これぢゃぁ
浮きも見づらくてたまらん
困ったもんだ
今日の狙いは黒鯛で
こんだけ明るきゃ
魚が警戒する
餌なんか
食ってくれない
ますます集まる
人魂
ゆらゆら揺れる
人魂
電気浮き取り囲む
人魂
打ち返しすらできない
楽しそうに
人魂
水面の油
七色に変わりて
人魂
あわせて
ゆらゆら揺れる
邪魔されたのか
邪魔していたのか
釈然とはしなかったが
多勢に無勢は如何ともし難く
竿をたたんで
丑三つ時に
人魂に向かって
うらめしや
聞こえぬ様に
うらめしや