夜の幻覚
吉田ぐんじょう

幼い頃は
兄と妹と三人で
床を並べて寝ていた

がっしりした骨格の子供だったが
神経質で泣き虫なわたしの為
寝室はいつも完全な暗闇にならないよう
蛍光灯の一番小さな橙の光がともされ
両親は呼べばすぐ来られるように
襖を細く開けて隣の部屋に寝ていた

ある年の夏のこと
湿度が八十パーセント
気温が三十度を下らない夜だった

他の二人は死んでいるみたいに
手を組み合わせてすやすや眠っている

暗闇の粒子がとても大きくて
呼吸をするたびに喉に引っかかるので
わたしは咳をしながら眼を開いていた

枕元には
何の胎児だろう
眼だけぎょろぎょろした襞だらけのかたまりや
紐のようなものがたくさんぶら下がるぼこぼこしたものが
くるりくるりと回って消える

理科室で見たホルマリン漬けの瓶だ
学校の一時間目
理科で鮒の解剖をしたからだろうか

妹が寝返りを打つ
組み合わせた両手の隙間から
小さい羊がはみ出している
いまみている夢の断片かも知れない

遠くで兄のうなされる声
女の人が胸の上にまたがって
にこにこしているのが見える

少し開いた襖の隙間からは
誰かの手がこちらまで伸びてきて
湿ったわたしの頬にそっと触れる
やさしく白い手であった
よく見ようとすると白い蛇に変わり
天井まで這い上がって消えた
そういうものだろうか

そしてわたしは

いつの間にか眠ってしまったらしい
気がつくと朝で
今日は遠出をするというので
みんな目一杯のおしゃれをしている最中であった

兄が野球帽のかぶり具合を調節しながら
おまえいつまで寝てんだ
と言う
頬に女の人の爪あとがついてる

髪の毛に羊毛が付着している妹は
木綿糸でつくったお手製のネックレスを首にかけ
おねえちゃんはやくしなよ
と笑った

天井裏からぞろりぞろりと
何かが這うような音が聞こえる



自由詩 夜の幻覚 Copyright 吉田ぐんじょう 2008-07-07 01:10:59
notebook Home 戻る