お隣りのひと
恋月 ぴの

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久しぶりのドライブは仲直りのしるし
お正月に学生さんの駆け登る急坂をアクセル吹かしながら
ふたりを乗せたクルマは芦ノ湖畔を目指す

車内にチェックを入れてみても
知らないおんなのひとの気配は感じられず
まあとりあえず良しってところかな

最高地点手前の直線道路はジェットコースターのようで
この峠道をひとの脚力だけで駆け抜けるなんて信じられなくて

下り始めると夏の湖畔はもうすぐそこで
一雨恋しいと深い緑は焼ける陽射しにじっと耐えていた


(?)

搭乗を促すアナウンスも賑やかに
観光船乗り場には大勢の人たちが繰り出していて
記念写真とか思い思いに楽しんでいる

どこの国の言葉なんだろう

地方からの観光客と思っていたら大きな間違いで
聞きなれない言葉があちこち飛び交っていた

「どうせ、あいつら中国人だろ
こんな山のなかでもみゃあみゃあ言いやがって」

みゃあみゃあ…それも可愛いけど


(?)

芦ノ湖畔の箱根園からロープウエイに乗ってみた
海抜一千メートル超の駒ケ岳山頂へ近付くにつれて
箱庭みたいな箱根の全景が眼下に広がってくる

あなた中華料理好きだったよね
ラーメン
チャーハン
焼き餃子にマーボ豆腐
それから横浜の中華街で肉まん美味しいって言ってたけど

あまりに近すぎて
見た目も似ているから妙な嫌悪感覚えてしまうのかな

駒ケ岳頂上の箱根元宮神社
秋になると平和祈願祭が斎行されるらしいから
小さな声で祈ってみた

何をって
それは内緒の内緒にして欲しい


(?)

明晩は七夕だったよね
このところ好天に恵まれず天の川眺めることできないけど
あの織女と牽牛の伝説って中国から伝わったらしくて

一年に一度しか逢えない

おとことおんなの仲に限らず
それぐらいの距離あれば良かったりするけど
理性ではどうすることもできない感情が
お隣りさん同士を引き裂いてしまう

それは近親相姦を忌避しようとする潜在意識にも似て
避けがたいってことぐらい判っているつもりでも

「みゃあみゃあ言うの聞いてたら
なんだか中華料理食べたくなってきた」

相変わらずあなたは訳の判らないことばかり言っていて
気がつけば山並みの向う側から湿った風吹き抜けて
真っ黒な夕立雲もくもくと
わたし達の頭上に拡がってきた

雨降って地固まるってことばもあるし
いつかはきっと…だと嬉しくて

わたしまで中華料理食べたくなった



自由詩 お隣りのひと Copyright 恋月 ぴの 2008-07-06 22:45:25
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