Girls Barでの小さな吸血
りゅうのあくび

遠い街の空にふるえる
甘酸っぱい林檎の
かたちをした心臓は
銀色の影にふちどられ
微かに揺れていて
静かにガラスに映る
しなやかなアウトラインのなかで
切ない果実のように
弾力のある胸が
みずみずしく
白と黒の
モードデザインを着た
少し綺麗すぎる
バーテンダーの少女に
しっとりと
目配せをされ


ちょうど少女の
紅いルージュが
都会の喧騒を
ひきとめるように
終電の間際の時間帯に
Girls Barへと入り込む
やや真ん中にある
白い席へと誘われて
ちょうど血が
足りなくなっていたので
一杯のトマトジュースに
溶けている鉄分を
飲み干したくて
注文をする
時間は
赤い心臓の鼓動が叩く
リズムのように
流れていて
ちょうど
ジャズピアノの鍵盤が
アップテンポの
やわらかい舞曲を
奏でている


ゆったりと
みなぎる血液は
もぎ採ったばかりの
はじける林檎の薄い皮を
ゆっくりと剥いていくように
流れてゆく
鮮やかな血液の色をして
心臓のかたちをした
林檎の果実から
剥かれて離れてゆく
ひとつながりになった
赤くて薄い
果実のかけらには
透けるように
甘酸っぱい薫りが漂うはずで


バーテンダーの少女と
流行のメイド喫茶の
作法について
片言の会話を終えると
明るい店の
夜空のなかには
星が瞬くかわりに
少女の指先の
ネイルアートには
夜明けの色をした
マニュキュアと
月の裏側の半球面をした
スパンコールが耀いている


ゆらめく
ネオンサインの
あいだを
縫うようにして
黒い蝶々が
飛んでゆく軌跡を後に
誰かの血液のかわりに
赤く滴っている
トマトジュースを
ストローで
吸い取るようにして


まるで洞窟のような
身体の中では
コウモリの翼が
羽根を休めていて
小さな吸血鬼は
都会の深い夜に
Girls Barの
カウンターテーブルの上にある
トマトジュースが入っていた
小さなグラスなかに
まるで真夜中にしみこむ
血痕のように
赤く残る液体と
少量の吐息を残しながら
PM24:00には席を立って
熱く眠れない夜空へと
旅立ってゆく



自由詩 Girls Barでの小さな吸血 Copyright りゅうのあくび 2008-07-06 20:07:10
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Breath of Fire Dragon