へば
佐々木妖精

ガキのころハマり倒したゲームの続きを
眠り込むまでやっていて
充満した電子音をかき分け
とにかく何か やっていないと休めなくて
うつぶせのままだったから 背中は痛いが
前に壊した肩ほど酷くはなく
おぼろげに過ぎ行く痛みだと思えば
愛しくさえある

電車の揺れる音
踏切りが相変わらず頭韻を踏む
それだけが夜明けを伝えにくる
走る電車に乗っているのが安心すると
アナウンサーは警告していたが
たぶんそのような理由で今
仮宿を渡り歩いている

無理して戻ってこなくていいよ
ホームで手を振り合い
別れに気づくまで十年近く
かかってしまって



飲み 喧騒を味わい
メシ代わりに余りもののスナック菓子を頬張る
今日みたいに渇く朝は
子供には転校を味あわせたくないからと
あの土地を譲らない
同僚の覚悟を思い知り
ただ転々と
なるべく抜きやすい根を引っ掛けようとしている自分を
比べる度に

今日みたいな朝には
フラフラ戻ってしまいたいけど
戻り方など忘れてしまったなんて
泣きたいのか笑いたいのか分からない
ひでえ顔して言わないと
何も言えずに見送るだけだから

今日みたいな朝には
せめて
行ってきますを声に出す


自由詩 へば Copyright 佐々木妖精 2008-07-05 08:42:40
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