第1章 小さなエルフ
箱犬

むかしむかし。皆さんが「むかし」と聞いて思いつく昔よりもっともっと何倍も遠いむかしのお話。

フェルデンライムという国の一番大きな樹の下にとっても小さなエルフが住んでいました。(といっても

本当は他のエルフよりも少し小さいぐらいなのですが、本人はその事をとても気にしていたんです!)
                                        
そのエルフは自分が産まれるずっとずっと前にここに住んでいたひいひいひいおじいちゃんの名前を

もらって「ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュ」と名のっていました。

エルフの名前は自分で決めるか親が決めるかどちらかです。ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・

ランブルフィッシュはお母さんが付けてくれた名前なのですが、あんまり長い名前なので、ほかのエルフ
                               
からは「シルバ」とか「リトル」とか呼んでいました。たまに「おちびちゃん」と冗談半分で呼ばれると、

ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュ(本当に長い名前!)はそのたびに落ち込み、

がっかりしてしまいました。


『ああ、なんで僕はこんなに他のエルフと比べて小さく産まれてきてしまったんだろう。』


もちろん、お母さんからもらった名前が嫌だ!なんて人間の子供みたいな事は言いませんけれども。

ですがそんな時、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはこの世界の不幸が全て

自分に降りかかってくるようなそんな気持ちでいっぱいになるのです。この前もブックルック・ペンシル・

バッカス・リトル・ランブルフィッシュは自分の名前を書いたフラスバの葉っぱに朝露を集めるエルフの

仕事の「エウムリカ」に参加しようと必死に極楽鳥の尾羽のペンで葉っぱに名前を書き込んでいましたが、

どう頑張ってもフラスバの葉っぱのぎざぎざとした端のほうまでで「ブックルック・ペンシルバッカス・リト」

でペンがとまってしまうのです。もう書けるところが無いんです。ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・

ランブルフィッシュはその度にいつもいつも困っていました。


『ああ、なんで僕の名前がかけるぐらい長い葉っぱが落ちてないんだろう。』


もちろん、お母さんからもらった名前が嫌だ!なんて人間の子供みたいな事は言いませんけれども。





 ある日、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはいつもの朝ようにククルの

実をかまどの火にかけて焼き、ナッツのような香りがいい具合にあたりに広がりだしたら、その間に

お母さん特性まっくろパンをナイフで切り、皿に盛り付けてあとはマルマー・ジュースを作るだけ、と

いうところまで朝ごはんの用意ができたとたん、突然隣に住んでいるエルフのシントリン・バクヤードが

三角に切り取った窓から顔を出してブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュに声をかけました。


『おいシルバ!今日は朝から忙しくなるぜ!!』

『何のことだいシントリン?』

『新しいお仲間がくるらしいんだ。もうみんなフェルデルモンテ広場に集まってるぞ。』


それだけ言うとシントリンは大急ぎで広場へと走っていきました。

新しい仲間!!ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはその言葉で胸がとても

ドキドキしました。なんせ、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュが住んでいる所は

学校なんてものはありませんでしたから、新しい友達を作るには新しい仲間がこの国へ入ってくるのを

待つしか方法がなかったのです。一度ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは人間の

子供の間に存在する学校と言うものにひどくあこがれた時期がありましたが、お父さんに「学校は子供の

貴重な時間を削る厄災だ!」とか悪魔のような「宿題」と言うものがあると言うのを聞いて、最近ではもう

すっかり学校という文字を自分の口から出さないようにしていました。





 さあ、仲間がやってくるというのに自分だけ家にいるのはがまんできません。ブックルック・ペンシルバ

ッカス・リトル・ランブルフィッシュはまっくろパンのきれはしを口の中にほおりこみ、自分の宝物が入った

かばんを肩に引っ掛けると急いでドアに向かいます。


『リトル、何処に行くの?』

『新しいお仲間に会いに行くんだ!お母さん行ってきます!』


あんまり早くドアを開け閉めしたので、家の中にとても小さなつむじ風ができました。つむじ風にお母さん

が少し見とれて顔を上げると、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはもういません

でした。

その頃、小さなエルフのブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはもう角を曲がった

坂道の途中にきていました。あんまり早く走りすぎたため、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブル

フィッシュの長い耳は真っ赤になってしまいました。それでも新しい仲間のことを考えるとブックルック・ペン

シルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは息をすることも忘れて広場まで走り続けなければいけませんでした。





 さぁもう少しで広場が見える道まで来るという時になって、ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブル

フィッシュは思いもかけないものを見てしまいました。はじめは見間違いかと思ってそのまま走り去ろうと

したのですが、もう一度よくよくそれを見てみるとブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュは

驚いて走るのをやめてしまったのです。

それは「真っ黒な影のような物」でした。普通、影というのは地面かあるいは壁なんかに自分の足からべったりと

伸びて張り付いている黒いもののはずなのですが、その「真っ黒な影のような物」はふわふわと宙に浮いて

いるのです。動き方からしてどうやら歩いているふうなのですが、真っ黒なのでよく分かりません。


『すごいや。お母さんのまっくろパンより黒いぞ』


ブックルック・ペンシルバッカス・リトル・ランブルフィッシュはしばらく見ていましたが、新しい仲間が来るという

シントリンの言葉を思い出して、呼吸を整えるとまた広場まで走っていきました。


散文(批評随筆小説等) 第1章 小さなエルフ Copyright 箱犬 2008-07-05 02:40:02
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